日本で就業した外国人が母国へ帰国する際に、一定条件を満たすともらえる年金保険の脱退一時金をご存じでしょうか。
2021年、日本で働く外国人は約170万人。そのほとんどの外国人が年金保険に加入しています。
そもそも年金保険とは老後の生活を支えるための保険制度で、日本に住んでいる人は国籍関係なく年金保険料を支払う義務が発生します。そのため、日本での長期就労を考えていてない外国人にとっては、不要な保険制度と捉えてしまうかもしれません
そこで用意されたのが「脱退一時金」です。
本記事では、脱退一時金の受給方法や受給額についてご紹介していきます。
目次
脱退一時金とは?
脱退一時金とは、日本の年金制度に加入した外国人が、加入期間6か月以上10年に満たない場合、払い込んだ保険料の一部を返金できる制度のことです。
脱退一時金の受給額は、保険料を納めた額や期間に応じて決まります。
※日本の公的年金制度を大きく分けると、国民年金と厚生年金の2種類があります。
国民年金は全国民が加入する年金制度です。一方厚生年金は、企業に属する会社員が加入する年金制度です。
以下、脱退一時金制度については、外国人就労者が多く加入する厚生年金に関する説明です。
脱退一時金の受給要件
厚生年金の脱退一時金受給要件は以下です。特に、年金保険の被保険者資格を損失してから2年が経過している場合、脱退一時金の受給ができませんので、注意が必要です。
- 日本国籍を有していない
- 厚生年金保険の加入期間の合計月が6月以上ある
- 厚生年金保険の加入期間を合算して10年間を満たしていない
- 障害年金などの年金を受け取る権利を有したことがない
- 日本国内に住所を有していない
- 最後に年金保険の被保険者資格を損失した日から2年以上経過していない
脱退一時金の申請方法
脱退一時金は、出国日前であっても請求手続きは可能です。
お住いの市区町村で住民票の転出届を行い、日本年金機構へ以下の書類を転出届に記載した転出予定日以降に到着するよう送付が必要です。
請求書内容に不備がない場合、請求書の受付後約4か月後に脱退一時金を受給することができます。
提出書類 | 脱退一時金請求書 |
添付書類 | パスポートの写し |
住民票の除票* | |
受取先口座情報 申請者本人の口座であることを確認できる書類 | |
年金手帳 | |
委任状 ※代理人が請求手続きを行う場合 | |
提出先 | 日本年金機構 |
提出方法 | 郵送・電子申請 |
提出時期 | 日本の住所をなくし、出国後2年以内 |
*住民票の除票は住民票の転出届を行うことで発行することができます。
※言語別の脱退一時金請求書はこちらよりダウンロード可能です。
脱退一時金の受給額
厚生年金の脱退一時金の支給額は、以下の計算式によって決まります。
※2021年4月より、最後に納付した月が2021年4月移行の方は、計算に用いる被保険者期間の上限が60月(5年)になりました。
脱退一時金計算式
被保険者であった期間の平均標準報酬額×支給率(保険料18.3%×1/2×支給率計算に用いる数*)
*支給率計算に用いる数
被保険者であった期間 | 支給計に用いる数 |
6月~11月 | 6 |
12月~17月 | 12 |
18月~23月 | 18 |
24月~29月 | 24 |
30月~35月 | 30 |
36月~41月 | 36 |
42月~47月 | 42 |
48月~53月 | 48 |
55月~59月 | 54 |
60月~ | 60 |
実際に以下の例で脱退一時金の計算をしてみましょう。
- 平均標準報酬額
月給15万円×36か月(被保険者期間)=540万円
賞与15万円×6か月(賞与3年分)=90万円
(540万円+90万円)÷36か月=17万5000円
平均標準報酬額=17万5000円
- 受給額
17万5000円(平均標準報酬額)×18.3%(保険率)×1/2×36(支給計に用いる指数)
=57万6450円
受給額=57万6450円
ただし、所得税20.42%が発生するするため、所得税を差し引いた45万8739円が指定口座に振り込まれます。
所得税(11万7711円)は後日還付申告をすることで払い戻しを受けることができます。
- 平均標準報酬額
月給20 万円×60か月(被保険者期間)=1200万円
賞与20万円×10か月(賞与5年分)=200万円
(1200万円+200万円)÷60か月=23万3333円
平均標準報酬額=23万3333円
- 受給額
23万3333円(平均標準報酬額)×18.3%(保険率)×1/2×60(支給計に用いる指数)
=128万998円
受給額=128万998円
ただし、所得税20.42%が発生するため、所得税を差し引いた101万9418円が指定口座に振り込まれます。
所得税(26万1580円)は後日還付申告をすることで払い戻しを受けることができます。
所得税還付申告の流れ
厚生年金の脱退一時金受給時に差し引かれた所得税は、納税管理人に所得税還付申告を依頼することによって、払い戻しを受けることができます。
- 納税管理人とは
納税管理人とは、納税義務者に代わり納税に関する手続きを行う方。
- ①厚生年金の脱退一時金が支払われる
- ・日本厚生年金から厚生年金保険脱退一時金送金通知書が届き、通知書の記載内容の額が支払われます。
・通知書は還付申告に必要なため、保管しておきます。
- ②納税管理人の届出書・確定申告書を作成する
- ・納税管理人が決まり次第、所得税/消費税の納税管理人の届出書を作成します。
・確定申告書を作成し、納税管理人と銀行口座を記載します。
- ③税務署へ書類を送付
- ・日本から本国へ転出する直前の所在地を管轄する税務署へ書類を提出します。
・厚生年金脱退一時金の通知書原本も添付します。
- ④納税管理人の口座に還付金が振り込まれる
- ・税務慮より納税管理人の住所へ国税還付金振込通知書が届きます。
・届出書類に記載した納税管理人の銀行口座へ振り込まれます。
- ⑤納税管理人が申請人の口座へ送金する
- ・納税管理人は申請人の指定口座へ送金します。
- ⑥納税管理人を解任する
- ・還付手続きが完了後、管轄の税務署へ所得税・消費税の納税管理人の解任届書を提出し、納税管理人を解任します。
参照:日本年金機構「脱退一時金制度について」
まとめ
外国人労働者が日本から帰国する際に貰える脱退一時金。
年金保険への加入期間が6か月以上10年未満であれば脱退一時金の受給ができるため、日本で短期就労を考えている外国人にとっては理解すべき重要な制度です。
しかし、脱退一時金制度を知らない外国労働者はまだまだ存在します。なかには、外国人労働者の誤った認識によりトラブルが発生してしまったケースもあります。
外国人労働者が日本での就労を終え、母国で安心した生活を送るためにも、企業は年金制度を説明し、十分な理解を得るようにしましょう。